読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

敗者はなにも語らない 『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』

おもしろさによってつまらなさを押しつぶしている感じ。

清澄高校の本編も同じだけど、咲は回想メインで話を進める。

麻雀ばっかやってて話が停滞してきたら回想入れる。

回想入れるのはキャラ同士の繋がりを深めるためで、要は作品のドラマ性が高めるため。しかし、ここまで回想の入った作品は見たことない気がする。ここぞという場面で回想入れてくるのは漫画だとよくあることだけど(ナルトやONE PIECEでも使われる)、ここまで頻繁に入れてくるものは記憶に無い。

回想は一人のキャラの掘り下げが出来るし、キャラ同士の絆を深められるし、ドラマ性を高くすることが出来る。いいことづくしのように思えるんだけど、当然デメリットもある。話が止まってしまうことと、本筋が疎かになりかねないこと。漫画で考えるとわかりやすいんだけど、過去回想に入ると長い。ジャンプでも一月以上かかる。長いものでは一年近く回想やることもある。月刊誌になると半年はかかることを覚悟しなきゃならない。回想入れると長くなる。その結果、読んでる方が本編の話を段々忘れて本筋がどうでもよくなっていく。熱心に読んでたとしても時間が経つ毎に冷めていく(回想で盛り上げることが出来るのならばプラスに働くけど難しい)。

これを、咲は超短編回想を乱発にすることで回避してる。長くても10分程度の回想に圧縮して、とにかく回想を出しまくる。これで本編を忘れることはないし、本筋の熱は冷めにくい。でも冷めにくいというだけで、どこかで熱が冷める可能性はある。

しかしこれ、物語の構造を理解している人でないと伝わりにくい。例えば、見つめ合って微笑みあったら(女の子同士だけど)お互い惚れてるんじゃないかとか、(女の子同士だけど)先輩を見つめる目が熱っぽいからおそらく片思いしてるとか、そういうのがわかる人でないと伝わらない。話を超圧縮してるから、類似の物語を知っていないと理解が厳しい。百合に一定の理解がないとそもそも話が受け入れられないという弱点もある。独特のハイコンテクストさを持ち合わせてる。ただ、これについてはアニメ見てるような人間が百合に理解がないわけがないという決め付けをしてもいいと思うので、そこまで問題とは言えないかもしれない。アニメに造詣がない人は理解できないだろうってだけで、深夜アニメ全体にその傾向はあるから咲だけの問題とするのは違うってのがある。

話を戻すけど冷めやすい部分がもう一つあって、咲の基本はカップリング戦術。これを見破られたら飽きられやすい。各チームにメインのカップリングがあって、それを軸にチームを構成する。

千里山園城寺と清水谷

新道寺の白水と鶴田

鶴賀学園の加治木とステルスモモ

風越女子の池田と福路

このカップリング戦術を見破られると「ああ、またそのパターンか…」って思われる可能性が高い。

だからこそ、阿知賀ではそれを打ち崩して師弟関係に落としこんだようにも考えられるけど、どうにも失敗している感じが否めない。キャラ立ち的な意味で他の高校に喰われてた。やっぱ師弟愛よりも情愛のほうを応援したくなっちゃう。ここらへん個人の好みが大きいんだろうけど。阿知賀女子はチームとしての結束がいまいち他チームより弱く感じる。一人ひとりの関係性が弱い。チームで仲良くやろうって感じもないし、支えあうって感じもない。たぶん、無言の信頼に重きを置いた結果なんだろうけど、そういうのは男同士のほうが成り立つんであって、女の子でやってしまうとギクシャクした関係に見えてしまう。女の子は基本キャピキャピしたコミュニケーションとるイメージあるし。白糸台みたいに最強の高校に仕立て上げれば、それを崩すことも可能だけど阿知賀でやってしまうとディスコミュニケーションなだけにみえる。

正直、途中から阿知賀負けろって思ってましたし。

千里山が負けるとはどういうことだ ← これが本音

勝負だし仕方ないとも思えるけど、このアニメ(漫画も含めて)の弱点は真面目に努力している高校が報われないこと。アニメで描写されてる様子を見て一番真面目に努力している高校は千里山に見えた。能力者が一人いたけど、基本的にみんな努力でのし上がっていったタイプ。分析系メガネさん(船久保ちゃん)が象徴的だけど、千里山は基本能力に頼らず地力の雀力で勝負してる。園城寺だけが例外で、清水谷も基本的に地力で戦ってるし、二番手エースの江口セーラも無能力者。まともさで言えば、千里山が一番まじめにまともに戦ってる。

そういう高校が理不尽な能力に蹂躙される様はきつい。白糸台の大星にしろ、阿知賀の高鴨穏乃にしろ、圧倒的に理不尽な能力で戦ってる。先天的に持ち合わせたとしか説明できない能力で無能力者を蹂躙していく。強者による弱者の蹂躙にしか見えないわけで、そこをもう少しなんとかして欲しいように思う。

というか、根本的な問題として穏乃の力を見せるのが遅いというのがあった。まさか大星や天江クラスと対等に戦える力があるキャラとはだれも思わなかっただろう。決勝の勝利は視聴者にとっても大どんでん返しだったけど、そりゃねえよと言いたい。準々決勝まで大苦戦強いられていたヤツらが、いきなり同世代の最強と互角に戦い始める。三日前は全国トップテンにも入れなかったやつが、いきなり全国トップに立ったようなもの。覚醒の一言で済ませるしかないんだろうけど、そこが引っかかる。

咲も大星もバリバリに点を稼いで大将として目立ちまくってる。それと同格のキャラが、そこまでの力を秘めている描写もなく、15話までスルーしたシナリオ構成は完全にミスったと言っていいんじゃないか。

これは灼も同じ。阿知賀女子は出し惜しみしすぎてた。

咲(清澄高校)が大将としてどんな活躍するかワクワクするように話を引っ張っていたのに対して、阿知賀では出し惜しみによってワクワクを引っ張ろうとした。これが完全にミス。力があるかわからないやつらを全国準決勝まで越させることになってしまった。これは大会全体の価値を毀損しかねない。準々決勝までに負けていった高校をどう思えばいいのか。

でも、これが運ゲーの要素が強い麻雀らしさを強くする。応援してた高校が負けていく過程にドラマがあるのである。トーナメント制の嫌なところは好きになったキャラも負けてしまうところだけど、トーナメントのおもしろさも負けていくところにある。どうやって負けるのか、負けた後になにが語られるのか。主人公は勝ってばっかりなので、敗者という見えにくい側面が現れる非常に稀有な機会を与えてくれるのがトーナメント。なのに、負けた新道寺の様子も千里山の様子もあまり映されなくてガッカリした。尺のせいだったんだろうけど、阿知賀なんか映してる暇があるならもっと負けた高校のその後にフィルムを割いてもらいたかった。怜ちゃんと竜華ちゃんが泣いて抱き合う様子が見たかった。膝枕して慰め合うイチャラブがみたかった。

ここまで悪態しかついてないけど、俺は咲がすごい好きだし、おもしろいと断言できる。阿知賀でもそれは同じ。だから最初に”つまらなさをおもしろさで塗り潰してる”と書いた。不満点を上げればそれこそキリがないけど、おもしろい点はそれと比較にならないほどある。

作品として粗は多いけど、それ以上の魅力でみせられるならなんの問題もない。咲は作家の個性と力で成り立っていると強く感じる。おもしろい作品はニアイコールで作家性が出ている作品。咲の世界観は咲でしか見られないからおもしろい。つまり咲は超おもしろい。形式にとらわれた作品より、作家性のある作品のほうがおもしろい。