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衣笠彰梧『小悪魔ティーリと救世主!?』(完結シリーズ)

 

小悪魔ティーリと救世主!? (MF文庫J)

小悪魔ティーリと救世主!? (MF文庫J)

 

 

エロゲーマーたちの間では有名な『暁の護衛』シリーズの衣笠彰梧(シナリオ)/トモセシュンサク(原画)コンビがラノベデビューということで注目を集めたシリーズが完結した。ラストの展開の杜撰さを考えるとおそらく打ち切りだろう。

しかし、このシリーズは衣笠彰梧というシナリオライターを見極める上では非常に実りのあるシリーズになっているように感じる。衣笠さんは暁の護衛の頃からずっと思っていたが、風呂敷を広げるのは得意だが風呂敷を畳むのは下手な人だ。今作でも天界と地獄の間に挟まれた人間界を主な舞台とした抗争という設定を元にして、それなりに上手く風呂敷を広げていた。だが、相変わらずの設定の詰めの甘さのせいか強引な展開が目立ち始め、うまく物語をつくりあげていくことが出来ていない。天界と地獄は常に局地戦が繰り広げられているような戦争状態にあるが、その大きな流れに逆らえるほどの強い主人公にしなかったことが最大の失敗だったろう。もしくはラノベというフィールドが異質な主人公であることを許してくれなかったのかもしれない。衣笠さんは今までも主人公が大きな流れと戦う作品をつくりあげている。だが、それを可能としたのはオレつえー主人公が八面六臂の活躍を出来たからだ。強い主人公であれば強引な決着をすることができるし、頭のいい主人公であれば戦略と戦術で難局を乗り切ることが出来る。しかし、今作の主人公はそのどちらもない。魔将、大天使と呼ばれる最強の存在になれるポテンシャルだけは持っているが、現状は力不足のただの高校生にすぎない。状況に流されることしか出来ず、場面場面で右往左往している印象しか今作の主人公に関しては残ってない。端的に言うなら魅力も力もない主人公だった。

これは明らかに今までの衣笠さんの主人公像から外れている。力と頭脳を兼ね備えた主人公が難局を乗り切るカタルシスを武器に作品作りをしてきた衣笠さんにとって、ラノベというフィールド自体一つの挑戦だったのだろう。ラノベの王道的主人公といえる意志薄弱で流されるだけの弱い主人公。

衣笠さんはそこに挑戦し、その挑戦は敢え無く失敗に終わった。

今回で衣笠さんの実力不足がはっきりした。新しい荒野を切り開こうとしたことは評価していいかもしれないが、見通しが甘すぎるだろう。どういう展望をもっていたのかは最後までわからずじまいになってしまったが、読者の納得度というのを念頭においてシナリオを構成したほうがいい。情景描写も足りなさ過ぎるし、文章に色がない。さらに今作においては明らかに魅力に欠けていた。弱い主人公をいかに魅力的に見せるか。強いという武器を失っただけで、ここまで魅力が落ちてしまうものかという驚きがあった。

主人公が騙す側か騙される側かで作品の魅力は全く違ったものになってしまうと痛感したシリーズだった。

あとがきで衣笠さんはヒロインのどちらとくっつけるか迷ったと書いていたが、恋愛の前に主人公に感情移入させてくれないとどうでもいいとしか感じられない。それどころか、魅力のない主人公に魅力的なヒロインが惚れてしまうということ自体に私は嫌な感じを持つので、恋愛重視のシリーズにするなら主人公の魅力を突き詰めておいて欲しかった。