俺修羅と富田さんと出合さんが新世界すぎる

俺修羅を見てきてよかった。

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話があまりにも気に食わなくて何度も挫けそうになったけど、本筋のどうでもよさが幸いして今まで見てこれた。とはいえ、あの世界観のリアルが二次元に侵食されている様は最後まで正視に耐えないが、それでも要所で光るところがあり、それは欠点を塗りつぶして輝きを放っていた。

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一話、亀井幹太さんが手がけたあの穏やかで暖かくエグみのない世界。

千和の過去が明かされ鋭太への強い思いを抱いている彼女を、赤崎さんが情熱的かつ痛切に演じきり胸を打たれた三話。

幼馴染としての居場所を奪われ新たな居場所と立場を求める愛衣の心情を、非常階段や神社や花火を使い痛みと美しさの両面を用いて描き上げた九話。

そして、ライバルであると同時に仲間への思いやりを忘れない自演乙部員たちの優しさに触れ、嘘を付き続けることの疲弊が限界に達した真涼の思いの丈を、彼女の独白なしにつくり上げ、それを知った鋭太の気持ちと視聴者のボルテージが呼応するような練り上げられた脚本の十二話。

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俺修羅はほんとうに要所で素晴らしい話数が入ってくる。全体を通しておもしろいということは俺には出来ないけど、特定の回のおもしろさはほんとうに突出していると思う。
最終回はおそらく亀井幹太監督がコンテ演出に入られるだろう。亀井幹太さん回に外れは絶対にない自信があるので、来週も間違いなくおもしろい。

正直いって好きではない作品にも関わらず、全十三話のうち好きと大好きと言える回が五話も入るのは初めての経験だ。まだ早いが、俺修羅はほんとうにいい作品になったと思う。原作が全く期待できなかったのだが、まさかここまで化けてくれるとは思わなかった。最後まで見させられたのも監督とスタッフたちが全力で作品にあたってくれたからだろう。

アニメにおける脚本、コンテ、演出、作画、色彩、音響、そのすべてがある一点で結ばれ奇跡的な輝きを放つことが出来た作品。各セクションが非常に水準の高い仕事をしてくれたからこの作品は輝くことが出来たと思う。こんな危ういバランスの上に成り立ってしまった作品を見れたことは僥倖としか言いようがない。

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アニメの楽しさの本質に触れられたようにも感じられて、この作品を見れたことが幸せだったと切実に感じるばかりである。

 
 余談だけど俺にとっての本筋。

出合小都美さんのコンテ演出まじすごい。
出合小都美さんといえばED職人。幻想的でファンタジーな雰囲気を与え、後味良く作品に終止符を打つエンディング。卓越したイメージ力を持つ人だと俺は認識していた。個人的にはそのファンタジーさがあまり好きではなかったが。俺修羅のEDはすごく好きだけど。

 出合さんの本編コンテはあまり記憶にない。初めてな気がする。
十二話は見ているときからレイアウトの良さとテンポの良さに圧倒されていて、長井龍雪、あおきえい、亀井幹太さんレベルの人が切っているのかと思いながら見ていたので、クレジットを見てビックリ。まさか出合さんとは想像もしなかった。

角度のきついカメラ、小物や風景などを映した間の取り方、心情がうまくあらわれる手や口元など身体のアップ。影の付き方はうまいし、太陽の下での女の子たちの肌の色もキレイで色彩も作画も非常に良い。コンテも演出も完璧すぎて文句のつけようがない。

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さらに驚くべきはこれを書いた脚本家の富田頼子さんだろう。富田さんといえば『境界線上のホライゾン』での省くべきところは省きつつ拘りは捨てず、うまくまとめた脚本が思い出される。しかし突出しておもしろいと思わされたのはこのくらいで、俺修羅では力を発揮できていなかったように思う。現に五話、七話の脚本はお世辞にも良いと言えない(原作の責任が大きいことも考慮しなければならないが)。
だが、十二話の脚本は完璧だった。これは出合小都美さんによるコンテ段階での徹底的な脚本の削りがあってのことだと予想される。映像的なおもしろさを追求した出合さんと濃密な脚本を書く富田さんの相性は抜群なのではないだろうか。

 出合さんと富田さんのホットラインが出来てもおかしくないレベルだったと思う。この二人が監督、シリーズ構成を務めている作品があれば確実に見たいし、おもしろいものが出来るのではないかと期待してしまう。

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思いもよらない実力を見せつけられ、新しい楽しみが見つかった。素晴らしい十二話だった。最終回も楽しみにしたい。