ライフイズビューティフル

とてもとてもめんどくさい映画。作品としてよく出来ていると思うし、おもしろくはあるが語るのはとてもめんどくさい。

この作品は喜劇であるのだが、喜劇でありながら第二次世界大戦ホロコーストを描いた。喜劇でもこの手の題材を扱う作品は世に溢れてる。だが、総じてめんどくさいことには変わりない。特にこれほどの知名度をもってしまうと、とてもとてもめんどうくさい。感想サイトを7,8個ほど見回ったが、感想がやたらめんどくさい。戦争を軽々しく扱うとは何事か、とお怒りの人が結構見られた。そんなもん喜劇だからとか、監督の作品性だからとかしか言えないと思うが、そういうことで怒ってる人がいた。戦争は真面目に語らなければいけない、悲惨さを後世にしっかり伝えなければならない、というようなことなのだろうが、それは作品の多様性を奪うことにしかならないのでやめておきましょうよとしか俺は思えないから、めんどくせえなあと思う。向こうの言ってることは正論だしやめろと言えない。というか俺の考え方としては、失礼な言い方になってしまうが、その硬直的な考え方も多様性の一つとして欲しいので批判するつもりが全くない。いろんな人間がいるから多様な作品が生まれ、多様な作品性が世界を豊かにして俺を楽しませてくれることに繋がると考えてる。だから、重要なのはバランスだ。戦争とかは極端な思想に流れたとき生じやすい。だからといって極端な人間が全くいなくなるのを願う思想もまた極端だろう。だけど、おもしろいものは大体極端なものから生まれる。このあたり俺の経験論だから詳しく説明しないが体感でわかる人はわかるだろう。童話などは極端な人間ばかりが登場する物語だが、童話を元にしたような人気作品は数え切れないほど存在する。こういうことだ。

ライフイズビューティフルは映画の文法を観客は知っている前提でつくられてる。本作は喜劇ですから戦争の扱い方軽いですけど、そこは暗黙の了解でお願いしますねといった感じに。観客の理解を前提としていて、ホロコーストや戦争における悲劇の予備知識などあって当たり前なのだ。これはコアな映画ファンに向けた戦略としては正しいが、マスに向けた戦略としては正しくない。だから叩かれる。アカデミー賞をとってしまったことでその批判が度々されているが、これに関して製作者が求めているのは観客のリテラシーなんだろう。だからこの映画はめんどくさい。喜劇の暗黙の了解を理解してない点で批判者はリテラシーはないがモラルはある。俺のようなに制作者は好き勝手つくればいいと思っている人間にとって本作は好ましいが、モラリストもしくは戦争における悲劇を啓蒙したい人間にとって本作は好ましくない。後追いする作品は出てきてほしくない。

アカデミー賞は政治によって決定されるといった話があるが、ライフイズビューティフルもまた政治に巻き込まれてしまったのかもしれない。だから俺はこの作品を観終えたあとにざわざわする感じを覚えたのだろう。

 

映像的には二点。前編から後編に飛ぶときの引きで映したビニールハウスの長回しカット。時間をジャンプさせる見事な手法。手際の良さが光る素晴らしいシーンに仕上がっていた。

もう一つがラストカット。子どもの腕を突き上げたポーズが印象に残る。ラストカットの止めでフェードアウトしていくシーンのセンスがずば抜けていた。あのタイミングで止めたことに驚いたし、子どもの最も活き活きとした瞬間で止められていたことに衝撃を受けた。渾身のラストカットにすべてをもっていかれた。