緑のルーペ『こいのことば』

エロ漫画界隈では有名な緑のルーペ著作『こいのことば』を読み終えた。

こいのことば

こいのことば

 

 

なにかしらの問題を抱えた学生が学外で出会った社会人の男を逃避行先としたドラマ、というエロ漫画ではありがちな設定の本作。だが、逃避行ものとしての秀作にはなったと思う。緑のルーペさんといえば『イマコシステム』『ガーデン』シリーズで有名だが、これらの作品より遥かにキレの増した演出には驚いた。もともとコマ割りやセリフ回しのうまい人という認識はあったが、ここまでキレのある演出をやってくる人ではなかった。さらに前までは作画に若干の不安定さがあってキャラの可愛さがなかなか安定しなかったのだが、今作のキャラのかわいさは抜群だった。可愛く描くことを研究されつくされた黒髪ロングの美少女という伝統的なキャラデザのおかげで参考資料も多かったからなのかもしれないが、キャラデザと作画についてはさらに一皮剥けた印象を受けた。この急成長の原因については後書きで絵を寄せていたアシスタントのさとみさんの影響もあったのではないかと思える。この人の描く絵がやたら可愛らしく影響受けているんじゃないかとか。

逃避行といえば『WHITE ALBUM2』2部における春希とかずさの旅館とか、ドバト『少女とギャングと青い夜』の学校の立てこもりとか、『イリヤの空、UFOの夏』3巻のイリヤと歩いた線路とか、参考文献が山のようにあるわけだが、逃避行の最大の山場といえば逃避行先で現実(警察であったり時間であったり探しにきた家族や友人であったり作品によってまちまち)に追いつかれる直前。逃げきれないことは明白で数日後には逃避行が終わることがわかっている中で、それを言葉にせず二人であったらいいと思う理想の日々を語るシーン。緑のルーペさんはこれをよくわかっていて、本作で非常に印象深い演出をしているので必見。

本作のタイトルになっていることからわかるようにこの物語のキーワードは”こい”である。新海誠さんの映画『言の葉の庭』はキャッチコピーが『"愛"よりも昔、"孤悲(こい)"のものがたり。』だけど、本作の”こい”の言葉にはまた別の意味が込められている。孤悲とは一人で悲しく想うことで、それこそが『言の葉の庭』の”こい”だったが、では本作における”こい”とはなんなのか。この”こい”の行く先を見届けてもらいたい。

〈BGM:上原れな『優しい嘘』〉

余談

本作は雑誌連載ではなくWeb漫画の連載が書籍化されたものというところに注目しなければならない。読んでいる最中、これを連載できる雑誌はどこかを考えていたのだが、全く思い浮かばなかった。奥付でWeb漫画連載としって大いに納得したが、これが連載できそうな雑誌がないことがもしかしたら現在の雑誌の問題点でWeb漫画の強みなのかもしれない。おもしろいWeb漫画を思い浮かべると、雑誌に載せられないタイプの作品も結構多いのかもしれない。岡部閏『世界鬼』、ONE『ワンパンマン』『モブサイコ100』などあまりWeb漫画を読む質ではないのでサンプルが思い付かないが、そういう隙間をついた傑作もこれからよりチャンスをつかみやすくなる時代がきているのだろう。最も作品数が急増することで目につく機会を増やすことが難しくなるデメリットもあるが。ただ、こういう作品が好きな人間にとって、Web漫画でちょこちょこ人気のある作品が出ていることはありがたくおもしろい話であるように思う。